宇宙飛行士は、刻々と変化する状況を正しく認識したうえで、その先を想像して行動しなければならない。先を読む作業とは、物事の変化をよく観察する中で、今後何が起こり得て、どんな影響を及ぼしていくのかを予測することである。そのためには、注意力と洞察力が欠かせない。
若田氏は、ISS滞在中、自分の精神状態や体調はもちろん、クルーの顔色、船内の機械類の音、匂いなどに注意を払っていた。軽微な頭痛も、二酸化炭素の濃度の変化を判断する材料にしていたという。これまでと異なる変化があれば、問題が生じているかもしれない。このように、現状をつぶさに観察して「違和感」を汲み取り、一歩先の事象をとらえることが、先を読むうえで重要である。
宇宙空間は、ささいなミスが命とりにつながりかねない職場である。例えば、スペースシャトルやISSのロボットアームの操作では、2つの操縦かんを手動で同時に動かす必要があり、宇宙船に傷をつければ、船内の急減圧といった大事故を引き起こす可能性がある。まさに安全性と正確性が求められる。
もちろん宇宙でのミッションには、通常の運用に加え、トラブルに対処し、安全に任務を遂行するための原理原則である「フライトルール」や、実際の手順を示した「手順書」が用意されている。そのため、勘や経験だけに頼ることはなく、常にフライトルールや手順書に立ち返り、行動を決めるのが原則だ。しかし、宇宙ではこれらに書かれていない想定外のトラブルも当然起こる。だからこそ、トラブルが複合的に発生し、通信装置の故障で地上の管制局と意思疎通できなくなっても、双方の動きが予知できる体制を築いている。このように、予想され得るトラブルを事前に洗い出し、不確定要素を最小化することが、想定外の状況に対応するための基本姿勢となっている。
ISSにおいて、緊急時には「生き延びる」ことが最大のミッションとなる。ISSは、隕石などの衝突による船内の急減圧や火災、有毒物質が船内に漏れる状況といった、命を脅かす事態と隣り合わせの環境だ。コマンダーはクルーを指揮し、迅速かつ適切な状況判断と、緊急度に応じた対応を誤りなく実行しなければならない。
緊急事態に対する事前訓練を通じて得られるメリットは、「メンタル面での備え」である。普段から万が一の状況を想定した危機管理を行うことで、精神的に安定し、目の前にある本来の目的に集中しやすくなる。そのため、訓練を訓練と思って受けないことを若田氏は徹底しているという。地上での訓練と宇宙での本番を区別せずに、同様の緊張感を持って臨むことで、本番でのパフォーマンスが大きく変わるからだ。
日頃、すべき質問をせずに「理解したつもり」になっていることが多いが、曖昧な認識や過信は禁物である。疑問を持ったらできるだけその場で質問し、正しく理解しなければならない。また、「質問する」という行為自体が、自らの頭で考えていること、その課題に強い関心があることを示し、それが周囲からの信頼の醸成につながる。
過去の成功体験は、必ずしも未来の成功の役に立つとは限らない。「こうあるべきだ」「あのとき、こうだった」という主観や過去の経験は、すべて足かせになる。
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