一瞬で判断する力

私が宇宙飛行士として磨いた7つのスキル
未読
一瞬で判断する力
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私が宇宙飛行士として磨いた7つのスキル
未読
一瞬で判断する力
出版社
日本実業出版社
出版日
2016年08月31日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)のコマンダー(司令官)を務め、最多となる4度の宇宙飛行を果たした宇宙飛行士、若田光一。不測の事態に陥っても、ミッションを達成すべく彼が磨いてきたマインドやスキルを、惜しみなく明かしたのが本書である。

宇宙飛行士の仕事と聞くと、特殊なものと思われるかもしれない。しかし、例えば若田氏が宇宙飛行士たちをマネジメントする際に直面したのは、現場と管理部門の間に立って板挟みにあうという、まさに世の中の中間管理職たちと同種の悩みであった。部門間の対立や主張の違いに対しても、ソフトな着地点を模索し、メンバー個々人の心理状態やチームとしての士気の維持を常に意識する。同時に、刻々と変化する状況に適切に判断し、解決策を実行する。そして、予想外のトラブルに対処しながらミッションを確実に成し遂げていく。こうして築き上げた信頼により、日本人初のISSコマンダーに抜擢された若田氏は、現在も新たな挑戦を続けている。

本書では、「想像する」「学ぶ」「決める」「進む」「立ち向かう」「つながる」「率いる」という7つのキーワードに沿って、若田氏ならではの経験や心得が明快に記されている。本書を読み進めるにつれ、読者の仕事にも応用できる考え方をいくつも学びとれることだろう。何より、常に初心を忘れずに改善を続けていく、プロフェッショナリズムの極致とも言うべき若田氏の姿に、大いに心を揺さぶられ、仕事への熱意が湧いてくるはずだ。

ライター画像
松尾美里

著者

若田 光一(わかた こういち)
宇宙飛行士。1963年8月1日埼玉県大宮市(現・さいたま市)生まれ。1989年九州大学大学院工学研究科応用力学専攻修士課程修了。その後、日本航空に入社してエンジニアとして勤務。1992年、宇宙開発事業団(NASDA、現・宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉)が募集した第2期宇宙飛行士候補に選ばれる。1996年、日本人初のミッションスペシャリスト(MS)としてスペースシャトル・エンデバー号に搭乗し、日本の科学衛星の回収などを担当。2000年、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)建設の作業などを行なう。
3度目の宇宙飛行となった2009年、日本人として初めて約4か月半もの間ISSに長期滞在した。帰還後、NASA宇宙飛行士室のISS運用部門の部長職に日本人として初めて就任する。2013年の4回目となる第38次・第39次ISS長期滞在ミッションにおいて、第39次長期滞在では日本人初のISSコマンダー(司令官)を務めた。現在は、JAXA有人宇宙技術センター長、ISSプログラムマネジャーを務める。
著書に『宇宙飛行 ~行ってみてわかったこと、伝えたいこと~』(日本実業出版社)、『国際宇宙ステーションとはなにか ~仕組みと宇宙飛行士の仕事~』(講談社)、『宇宙がきみを待っている』(汐文社)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    宇宙飛行士には、想定外の状況に対処しながらミッションを達成するために、常に先を読み、予想され得るトラブルを事前に洗い出し、不確定要素を最小化することが求められる。
  • 要点
    2
    余裕がないときこそ、仕事の「優先順位づけ」を意識することが肝要である。課題の重要度と緊急度を常に把握し、「自分やチームで処理できるのか」を分析して、仕事を仕分けることで、優先度の高い仕事に集中できるようになる。
  • 要点
    3
    不完全でいいから、その時点でベストな答えを出し、それに基づいて行動することが重要だ。

要約

想像する

先を読む力の重要性

宇宙飛行士は、刻々と変化する状況を正しく認識したうえで、その先を想像して行動しなければならない。先を読む作業とは、物事の変化をよく観察する中で、今後何が起こり得て、どんな影響を及ぼしていくのかを予測することである。そのためには、注意力と洞察力が欠かせない。

若田氏は、ISS滞在中、自分の精神状態や体調はもちろん、クルーの顔色、船内の機械類の音、匂いなどに注意を払っていた。軽微な頭痛も、二酸化炭素の濃度の変化を判断する材料にしていたという。これまでと異なる変化があれば、問題が生じているかもしれない。このように、現状をつぶさに観察して「違和感」を汲み取り、一歩先の事象をとらえることが、先を読むうえで重要である。

不確定要素を最小限にする
3DSculptor/iStock/Thinkstock

宇宙空間は、ささいなミスが命とりにつながりかねない職場である。例えば、スペースシャトルやISSのロボットアームの操作では、2つの操縦かんを手動で同時に動かす必要があり、宇宙船に傷をつければ、船内の急減圧といった大事故を引き起こす可能性がある。まさに安全性と正確性が求められる。

もちろん宇宙でのミッションには、通常の運用に加え、トラブルに対処し、安全に任務を遂行するための原理原則である「フライトルール」や、実際の手順を示した「手順書」が用意されている。そのため、勘や経験だけに頼ることはなく、常にフライトルールや手順書に立ち返り、行動を決めるのが原則だ。しかし、宇宙ではこれらに書かれていない想定外のトラブルも当然起こる。だからこそ、トラブルが複合的に発生し、通信装置の故障で地上の管制局と意思疎通できなくなっても、双方の動きが予知できる体制を築いている。このように、予想され得るトラブルを事前に洗い出し、不確定要素を最小化することが、想定外の状況に対応するための基本姿勢となっている。

訓練は本番のように、本番は訓練のように

ISSにおいて、緊急時には「生き延びる」ことが最大のミッションとなる。ISSは、隕石などの衝突による船内の急減圧や火災、有毒物質が船内に漏れる状況といった、命を脅かす事態と隣り合わせの環境だ。コマンダーはクルーを指揮し、迅速かつ適切な状況判断と、緊急度に応じた対応を誤りなく実行しなければならない。

緊急事態に対する事前訓練を通じて得られるメリットは、「メンタル面での備え」である。普段から万が一の状況を想定した危機管理を行うことで、精神的に安定し、目の前にある本来の目的に集中しやすくなる。そのため、訓練を訓練と思って受けないことを若田氏は徹底しているという。地上での訓練と宇宙での本番を区別せずに、同様の緊張感を持って臨むことで、本番でのパフォーマンスが大きく変わるからだ。

学ぶ

愚かな質問はない
AndreyPopov/iStock/Thinkstock

日頃、すべき質問をせずに「理解したつもり」になっていることが多いが、曖昧な認識や過信は禁物である。疑問を持ったらできるだけその場で質問し、正しく理解しなければならない。また、「質問する」という行為自体が、自らの頭で考えていること、その課題に強い関心があることを示し、それが周囲からの信頼の醸成につながる。

先入観を捨て、「きちんとした理解」を徹底する

過去の成功体験は、必ずしも未来の成功の役に立つとは限らない。「こうあるべきだ」「あのとき、こうだった」という主観や過去の経験は、すべて足かせになる。

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要約公開日 2016.10.17
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