U理論の始祖、オットー博士によると、超一流の人たちのイノベーションやリーダーシップの源泉は、「何を(What)どうやるのか(How)ではなく、誰(Who:どのような存在として、その場にいるか)」にあるという。つまり、「自分は何者なのか、行動を生み出す源(ソース)は何か」を探ることが必要となる。
U理論は、解決困難な組織や社会の問題に対して、根本的な解決の糸口を示してくれる。特に、望ましい状態は明確なのに、そのために良かれと思って取った打ち手が前進に結び付かないどころか、時にマイナスの影響を及ぼすという、ルービックキューブ型の問題に出くわしたとき、U理論は新しい観点とアプローチを提示し、イノベーションの実現を後押しする。
U理論は従来の枠組みの転換を促すために、「(A)出現する未来からの学習」、「(B)行動の『源』への着目」、「(C)ソーシャル・フィールドに着目した3つのプロセス」という新しい観点を提示する。
(A)は、過去に起きたことの振り返りから学ぶ「過去からの学習」とは対極にある概念だ。これまで遭遇したことのない問題に対しては、過去からの学習では対応しきれない。そこで、自分の内面を掘り下げ、内側から湧き上がってくるものに形を与え、そこから肉づけしていくという(A)の方法が重要となる。
(B)は、「何を」「どうやるか」というノウハウや成功事例ではなく、「その行動をとっている自分は何者か」という、行動の「源」に着眼することである。この第三者にはうかがい知れない「Who」の領域が、パフォーマンスの違いを生み出す。例えば、本番に強い人は「最高のプレーで観客に感動を与えている人」として本番に臨んでいる。一方、本番に弱い人は「ここぞというときにいつも失敗してしまう人」という意識で本番を迎えている。このように、同レベルの能力であっても、当人の内面の状況がプレーの結果を大きく左右するのだ。
そして(C)の「ソーシャル・フィールド」とは、時間や議論の「社会的な土壌の質」を意味する。その瞬間ごとの個々人の内面の質といったミクロな意味でも、チームや組織全体としての意識状態や文化、風土といったマクロな意味でもとらえられ、まさにU理論の根幹を成す概念だ。
このソーシャル・フィールドを耕し、変革を促すには、次の3つのプロセスを経ることになる。それは1:センシング(ただ、ひたすら観察する)、2:プレゼンシング(一歩下がって、内省する。内なる「知(ノウイング)」が現れるに任せる)、3:クリエイティング(素早く、即興的に行動に移す)である。
大事なことは、U理論がテクニックというより、どんな方向に舵を切れば変革が生まれやすくなるかという「原理・ガイドライン」だという点だ。とにかく試しては即興的にデザインを変えていくことが求められる。
ここからは先述したU理論の3つのプロセスを、さらに細かく7つのステップに分けて、その意味と実践のポイントを解説していく。センシングはステップ1から3に、プレゼンシングはステップ4に、そしてクリエイティングはステップ5~7に対応する。
最初のステップは、過去の経験によって培われた枠組みを再現している状態であり、これを「ダウンローディング」と呼ぶ。この典型例は、恋愛や結婚のマンネリ状態である。相手とのやり取りがパターン処理され、次第に相手のことが退屈に思えてくる。
ダウンローディングは、個人の内側だけの問題ではなく、組織レベルでも生じる現象だ。
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