本書において、「学習する組織」は以下のように定義される。それは「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」である。
ここでの「意識(アウェアネス)」は、行為者がどの程度、外的世界や自分の行動、自分や集団に何が起きているかに気づいているかの度合いを表す。学習する組織の実践において極めて重要なものであり、能力を発揮するための大前提となる。
変化の激しい今日の事業環境において、学習する組織は「しなやかに、進化し続ける組織」となっていく。仮に企業不祥事や再建が必要な事態に陥ったとしても、立て直しができるかどうかは、この「しなやかな強さ」にかかっている。
学習する組織への研さんを続けるにつれ、次のような成果が得られる。まず、風通しがよく、オープンに話し合う文化が育っていく。そして、組織の中で目的、ビジョン、価値観とその意味が共有され、それに基づいた行動がとれるようになる。その結果、事業環境の変化をいち早く察知し、適応しながらも、その核となるアイデンティティを保ったまま、不断の進化を遂げていく。学習する組織の実践は、チーム・組織の文化だけでなく、財務的・戦略的なパフォーマンスにも、大きな効果をもたらしてくれる。
学習する組織を支えるのは、チームにおける3つの中核的な学習能力と、それを構成する5つのディシプリンである。まず、3つの学習能力とは何か。
1つめは「志を育成する力」である。個人、チーム、組織が、自分たちの真の望みをイメージし、それに向かって、自発的に変化していく意識と能力を指す。
2つめは「複雑性を理解する力」だ。自分の理解と他人の理解を重ね合わせ、様々なつながりで作られるシステムの全体像と、その作用を理解する意識と能力を表している。
3つめは「共創的に対話する力」である。無意識の前提を振り返り、内省しながら、ともに創造的に考え、話し合うための意識と能力を指す。
これら3つの力は、「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」という5つのディシプリンによって構成される。ディシプリンとは、習得しなければならない理論と手法の体系を意味する。いわば武術や芸術の「道」のようなものだ。重要なのは、これら3つの力を統合的に活用し、伸ばしていくことである。
「志を育成する力」は、5つのディシプリンの中で「自己マスタリー」と「共有ビジョン」から成る。「自己マスタリー」とは、自分が心から求めている結果や未来を生み出すために、自分の能力と意識を、絶えず伸ばし続けるディシプリンである。「自己」とは、主体性を持つこと、物事に当事者性を持つことを意味する。
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