知の体力

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知の体力
出版社
出版日
2018年05月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

知的でありたいとは誰もが思うところである。研究と高等教育を司る大学という機関は、そのような「知」を授ける存在としてもっとも代表的なもののひとつだろう。内閣府男女共同参画局の調査によれば、日本における2020年度の大学進学率は50%をゆうに超えている。すなわち実態として、2人に1人が大学に進学している(あるいはこれからすることが見込まれる)ことになる。

しかしその反面、大学であるべき「知」とは果たしてどのようなものなのか、すぐに答えることは意外にも難しい。本書は長く研究に携わる大学教授としての立場から、大学以降に必要とされる「知」がどうあるべきかを語る本だ。基本的には大学生を想定する読者として書かれているように思われるが、その与えてくれる示唆は若者向けに留まらない。なぜなら本書で語られるように、大学という機関そのものが、決まった答えを求める高校までの学校教育と、答えそのものが存在しない中で問題に対処することを求められる現実世界とを緩衝する存在であるからだ。すなわち、大学について考えることは、この複雑な現実の中を生きようとする我々にとって「知」とはなにかを捉え直す作業に他ならない。

「知」と「体力」とは、一見すると相反する言葉のように思われる。しかし未知にあふれたこの世界を生き抜くためには、「知の体力」と言うべきタフネスが必要なのだ。

ライター画像
池田明季哉

著者

永田和宏(ながた かずひろ)
1947(昭和22)年滋賀県生まれ。細胞生物学者。京都大学名誉教授、京都産業大学
タンパク質動態研究所所長。歌人として宮中歌会始詠進歌選者、朝日歌壇選者もつとめる。
紫綬褒章受章、ハンス・ノイラート科学賞受賞。『タンパク質の一生』『近代秀歌』『歌に私は泣くだらう――妻・河野裕子 闘病の十年』『あの胸が岬のように遠かった――河野裕子との青春』など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    高校までの初等中等教育では「正しい答えがある」ことが前提の問題に取り組む。しかし実社会に出れば、そのような答えのある〈問題〉はほとんどない。
  • 要点
    2
    問題にはひとつの答えがあるものだと思ってきた教育と、なにひとつ絶対的な答えがない実社会の間に設けられるべき緩衝帯となることが、大学の役割である。
  • 要点
    3
    想定外の問題に自分で対処するための「知の体力」が必要になる。それは知識の習得以上に、得た知識を再編して目の前の問題に適用していく考え方の訓練である。

要約

知の体力とはなにか

答えがないことを前提として

その人生の大半を研究者として生きてきた著者は、あるとき京都産業大学の新学部設立に伴い、学部長になった。教育者として新入生たちに向かって話をするという新鮮な体験の中で、これまで考えなかったさまざまなことを考えざるを得なくなったという。

そこでもっとも強く感じたのは、新しく大学に入った新入生に「生徒」から「学生」になったという自覚が極めて薄いということだった。

高校までの初等中等教育では「正しい答えがある」ことが前提となった問題に取り組む。しかし実社会に出れば、そのような答えのある〈問題〉はほとんどない。問題にはひとつの答えがあるものだと思ってきた教育と、なにひとつ絶対的な答えがない実社会の間に設けられるべき緩衝帯となることが、大学の役割なのではないだろうか。

質問からすべてははじまる

たとえば研究発表の場で、質問を一切しない人がいる。しかし話された内容をただひたすら覚えたり吸収しようとするだけでは、その知識は自分のものにならない。話された内容を自分の知の体系のなかに位置づけるためには「能動的に聞く」ということが必要である。そうすれば、外部からインプットされてくる内容と、既存の自らの知とのあいだに生まれる軋轢が、質問を促すはずだ。まさに質問から、すべてははじまるのである。

想定外を乗り切る「知」の体力を
Marco VDM/gettyimages

誰にも未来はわからない以上、私たちにこれから起こることは、すべて想定外のことであると言える。それを自分の力で乗り越えていくことが生きるということだとしたら、想定外の問題に自分で対処するための「知の体力」が必要になる。それは知識の習得以上に、考え方の訓練である。

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要約公開日 2023.09.10
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