ヤバい経済学 [増補改訂版]

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ヤバい経済学 [増補改訂版]
ジャンル
出版社
東洋経済新報社
出版日
2007年05月07日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

本書で扱っているのは基本的にアメリカでの事例ばかりなので(とはいえ相撲は登場する)、我々日本人には感覚的にピンと来にくいところもあるかもしれない。しかしそんなことが気にならないぐらい、スティーヴン・D・レヴィットの着眼点のユニークさと、膨大なデータ分析から導き出される答えの鮮やかさには脱帽させられる。ほかの誰が、「麻薬の売人の多くがママと暮らしている」ことに目をつけ、本気で研究しようとするだろう? それも社会学ではなく経済学として。

相撲界の八百長や完璧な子育てとはどういったものかについて等、これまで経済学でまともに扱われなかったテーマが本書にはいくつも登場する。扱われる範囲が多岐に渡っているため、一見「ごった煮」のような研究にも思えてしまうが、その根底には共通して流れているものがある。それは、「現実の世界で人がどんなふうに動くかについて筋の通った考え方をする」という著者のポリシーだ。

本書を読んだからといってお金儲けの方法が分かるわけではないし、ビジネスへのやる気が高まるということもないかもしれない。しかし、このある意味で「くだらない」経済学書は、これまでに世界中で何百万もの人をも魅了してきた。さあ、あなたもレヴィット博士の目を通して、「混乱と複雑さとどうしようもない欺瞞が満ちている」現代社会の裏側を探検してみよう。

ライター画像
和田有紀子

著者

スティーヴン・D・レヴィット
シカゴ大学で経済学の教鞭を執る。2003年、2年に1度40歳未満で最も優れたアメリカの経済学者に贈られる、ジョン・ベイツ・クラーク・メダルを受賞。

スティーヴン・J・ダブナー
ニューヨーク市在住の作家・ジャーナリスト。『ニューヨーク・タイムズ』紙および『座・ニューヨーカー』誌等の記事を執筆。全米ベストセラーとなった『さまよえる魂(Turbulent Souls)』および『ヒーロー好きの告解(Confessions of a Hero-Worshiper)』の著者。

本書の要点

  • 要点
    1
    シカゴの教育現場では、先生によるインチキが横行していた。著者があるアルゴリズムを用いて調べたところ、全体の実に5%にあたる200クラス以上で先生のインチキが発覚した。インチキをした先生は追放され、翌年のインチキも30%減ったという。
  • 要点
    2
    アメリカでの犯罪率減少に最も大きく寄与したのは中絶の合法化である。若く未婚で貧しい女性が子どもを産まなくなったことが、犯罪率の低下に繋がった。この現象はアメリカだけではなく、カナダやオーストラリアでも確認されている。

要約

経済学でインチキ先生を追い出せ!

インチキはあらゆることにつきもの
LuckyBusiness/iStock/Thinkstock

インチキするのが人の本性かどうかは別にして、ほとんどの人間の営みにはインチキがついて回る。ここではシカゴの教育現場から「インチキ先生」を排除した事例を紹介する。

シカゴ教育委員会は、毎年シカゴに在住する生徒・児童40万人の教育を担当している。2002年、当時のブッシュ政権による「1人も落ちこぼれさせない法」の施行により、一発勝負のテストが全米で義務化されたが、シカゴ教育委員会はそれより早く1996年から一発勝負のテストを導入していた。

これは年1回のテスト結果にて、児童・生徒の成績を評価しようとするもので、テストの結果に関しては学校側が責任を負うとされた。成績の低かった学校は観察処分を受けることになり、職員も成績次第では解雇されると定められた。

この方式に賛成の立場を取った人々は、授業レベルや、生徒の勉強モチベーションの向上を期待していた。また、出来の悪い生徒を無理に進級させないことによって、出来のいい生徒の邪魔にならなくなることも評価していた。

一方、反対の立場を取った人々は、たまたまテストの出来が悪かった一部の生徒にひどい罰が与えられてしまうこと、そして先生たちが試験対策ばかりやるようになることを危惧していた。というのもこの制度では、生徒たちの点数が悪ければ先生たちにも罰則が課せられることになることに加え、逆に生徒たちがいい点を取れば結構な額のお金が与えられることになっていたからである。

一発勝負のテストが導入されたことにより、授業の質を向上させることで生徒の点数を上げようとする至極真っ当な先生ももちろんいた。だが楽をして、つまりはインチキで生徒の点を上げようとする先生も出てきた。わかりやすいところでは試験時間の延長、過去問の事前入手といった手段が用いられた。

しかし、もし先生が「真剣に」インチキを考えるなら、解答用紙を集めたあと、回収されてしまう前に、間違っている解答を消して正解に書き換えるのが一番効果的である。ではそれをどうやって見抜けばよいだろうか。

仮説と実証
VIPDesignUSA/iStock/Thinkstock

著者の見立てはこうであった。もし先生の立場であれば、あまりたくさんの書き直しはしたくないだろう。

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要約公開日 2016.06.02
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