人前でのプレゼンを恐れる人は多い。失敗したら社会的評判を失ってしまうと感じているからだ。しかし、この恐怖をバネに努力して、プレゼンの達人になった例は枚挙に暇がない。そして、パブリックスピーキングの能力は、自分に合った方法を見つけることで、誰でも開花させることができる。
講演者の使命は、「人生を変えるようなアイデア」を、聞き手の心の中に植え付けることである。そのため、あくまでも「語る価値のある何か」を持っていることが前提だ。誰にでも、自分にしかない経験はある。しかし、そこから引き出される洞察に価値があるかを見極めなければならない。
世の中に広めるに値するアイデアかどうかを判断するには、自分をよく知っている人と心を開いて話してみるとよい。きっと、自分では気付かなかった、すごいと思えるようなアイデアが掘り起こせるだろう。
ただし、アイデアを聞き手の頭の中で再現するには、話し手は自分の思い込みや価値観にとらわれず、聞き手と共通の土台を築くことが求められる。著者によると、優れたトークは、聞き手を美しい新天地へといざない、普通の光景を非凡に見せるレンズを与える旅のようだという。話し手が旅の案内人として、聞き手に最良の「贈り物」を届けようと意識すれば、トークの準備は完璧だ。
たくさんの言葉を尽くし、美しいスライドを用意したトークなのに、聞き手に何も残らない。これは講演者がトーク全体の「スルーライン」を意識していないために生じる。
スルーラインとは、一つ一つの物語の要素をまとめ、全体を貫くテーマを指す。聞き手にトークの目的地についてヒントを与え、目的地に一歩ずつ着実に近づくための道程が、まさにスルーラインの役割だ。
トークの出だしからスルーラインが明確だと、聞き手をトークの世界に引き込みやすい。効果的なのは、スルーラインを端的かつ意外性のある15ワード以内の言葉でまとめることである。TEDで人気を博しているトークのスルーラインを見てみよう。「選択肢が増えると幸福度は下がる」、「宇宙の歴史を18分で振り返ると、混沌から秩序への道が見える」などだ。こうした聞き手の好奇心をかきたてる切り口を見つけるには、「一点の曇りもなく(観客に)理解してほしいものは何か」を自問するとよい。
では、スルーラインを描くにはどうしたらいいのか。まずは聞き手の属性や知識、期待といった情報を多く集め、内容を厳選する。その際、言うべきことを全て詰め込み、少しずつ要約するという形をとってしまうと、無味乾燥で浅い話になりがちだ。大事なのは、なぜその話が大切なのかを説明し、各ポイントを実例や逸話、事実で肉付けすることである。
また、スルーラインを明確に描き、的を絞ったうえで、制限時間内にスルーラインにつながっていくような構成を考えることが欠かせない。
スルーラインをつくる際のポイントは、自分の中に深く根を下ろしたトピックを選ぶことである。聞き手の好奇心を刺激するのか、そのトピックについての知識が聞き手にとって重要なのか、それを語るだけの信用が自分にあるかといった点を振り返るとよい。
スルーラインができたら、それを肉付けるのに効果的な5つのツールを活用することを著者は薦めている。「つながる」、「ストーリーを語る」、「説明する」、「説得する」、「見せる」という5つのツールのうち、要約では「つながる」、「ストーリーを語る」、「見せる」を紹介しよう。
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