ANAは2013年~2015年の3年連続で英国SKYTRAX社のエアライン・スター・ランキングで世界最高評価の「5スター」を獲得した。国内の航空会社ではANAだけ、世界でもANAを含めて7社のみという偉業を成し遂げた要因の1つに、社員一人ひとりが実践してきた「気づかい」がある。
「気づかい」というと、「できないよりはできた方がよい」という程度の認識の人も少なくないだろう。しかしANAでは「気づかい」を、「なくてはならないもの」と位置付けている。その理由は、ANAの至上命題である「安全の確保」を実現するためだという。ANA社員にとって「飛行機を安全に飛ばす」ことは何があっても譲れないことである。安全を確保するためには、日ごろからチームのメンバーがよりよい関係を築いておくことが必要だ。そして、よりよい人間関係を築くために必要なことこそが「気づかい」であるという。
通常、気づかいと聞いてイメージするのは、「お客様」に対しての気づかいである。しかしANAでは、気づかいが「社内」に浸透していることが特徴だという。理由はシンプルで、社員同士の気づかいが、お客様への気づかいの「土台」となるためだ。つまり「仲間を気づかわない人は、お客様も気づかえない」ということである。たとえば笑顔で接客しているCAが、裏方の調理室に入ったとたん、大きな声で、汚い言葉づかいで後輩に接していたとしたら、お客様からの信頼感は損なわれてしまうだろう。
また、気づかいは安全性の向上にも有用である。ある機長は副操縦士に対して、些細なことでも、何でも言ってくれるような人間関係を「気づかい」によって構築するという。副操縦士が機長の判断を過信せずに、疑問を投げかけることが安全性の向上につながるからである。また、ベテラン整備士は「伝えたいことが伝わる人間関係にするために気づかいは必要」と述べる。安全運航を達成するためには、仲間に伝えたいことが伝わらなければならず、そのためには相手の状況を考えた上で伝えることが重要だからだ。
人は、他人のためと思って行うことに対して、つい見返りを期待してしまうものである。しかし誰が見ていなくとも行う気づかいこそが、本当に大切なものである。それをANAでは「相手に気づかれようとする気づかいは、銀」「相手に気づかれない気づかいは、金」と表現している。自分の行った気づかいを相手に気づいてもらって感謝されれば嬉しい。しかし相手に気づいてもらえなくとも、自分の気づかいで相手が普通に時を過ごすことができれば、よしと考える。このような心意気で全員が気づかいをすると、とても過ごしやすい環境が生まれるのだ。
「気づかれない気づかいを積み重ねていくことは、きっと自分の将来に、そしてまわりの仲間たちの将来にとってプラスになる」。このように考えるところに気づかいの本質がある。
ANAの社員が安全の他に重要視しているものに「定時運航」がある。時間を守らない航空会社はいざというときに絶対に選ばれない。これは人にも当てはまり、ここ一番で「大切な仕事を頼もう」と思ってもらえるのは、時間を守る人である。どんな仕事であっても、時間・約束を守る行為はすべての人間関係・信頼の「土台」となる。そしてそのために重要になってくるのが、事前の準備だ。
ANAの整備士のあいだでは「段取り八分」という言葉が浸透している。段取り八分とは本番の成否の8割はその前の準備段階で決まるということだ。限られた時間の中で最高のパフォーマンスを発揮するために、整備士たちは事前の情報入手や部品・工具・マニュアルの準備、そして作業同士の意思疎通を欠かさない。また本番では予期せぬことが度々起こり得るため、常に想定通りに行かない場合のことまで考えて「100%の準備」ではなく「120%の準備」をしておくことが大切だという。
ANAのCAは、日常生活の中で「逆算」するのがライフワークになるという。例えば、
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