日本社会のしくみの表紙

日本社会のしくみ

雇用・教育・福祉の歴史社会学


本書の要点

  • 日本社会の生き方は、大企業の正社員とその家族が所属する「大企業型」と、地元で農業や自営業などを営む「地元型」に分けられる。最近はそのどちらにも属さない「残余型」が増えている。

  • 日本の社会保障は「企業」か「地域」のどちらかに足場があることを前提につくられている。

  • 日本は労働運動の中で、職員の特権だった年功制と長期雇用を現場労働者にまで拡大し、社員全員に昇進の道を開いた。その代わりに他企業との断絶や経営者の裁量による異動を受け入れた。

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【必読ポイント!】日本社会の3つの生き方

「大企業型」と「地元型」

wutwhanfoto/gettyimages

現代日本社会での生き方は「大企業型」「地元型」「残余型」の3つの型に分けられる。「大企業型」とは、大学を出て大企業や官庁に就職し、「正社員・終身雇用」の人生を送る人たちとその家族の生き方だ。「地元型」は、地元から離れない生き方である。地元の中学や高校を卒業し、農業、自営業、地方公務員、建設業、地場産業など、その地域に根差した仕事に就く。「地元型」の収入は「大企業型」よりも少なくなりがちだが、実家に住むなら住宅ローンはないし、近所からの「おすそ分け」が多い分、支出も少ない。さらに「地元型」は、商店会、自治会などの結びつきがあるため、政治力がある。行政が地域住民としてまず念頭に置くのは「地元型」の人たちであり、政治的な要求も届きやすい。一方、「大企業型」は地域に足場を失いがちだ。地元を離れて暮らしていることが多いだけでなく、転勤があればひとつの地域に長く住むことはない。定年後の生き方に迷う問題や、近隣を頼れないことからくる育児の問題もある。ローンで家を買うなど支出も多い。日中在宅していないので、政治家もあまり呼びかけの対象にしない。「地元型」と「大企業型」は、それぞれ生きる状況が大きく異なり、違った不満を持っている。だが、「日本」を論じるとき、念頭に置かれがちなのは「大企業型」だ。それは、論じる人の多くが大都市のメディア関係者だからだ。その感覚でいえば、「日本人」は満員電車で通勤し、保育園不足に悩んでいることになる。しかし実際には、そうした人は「日本人」のごく一部にすぎない。

「残余型」

日本の社会保障制度は、「大企業型」と「地元型」を前提につくられている。その一方で、現代の日本社会には「長期雇用はされていないが、地域に足場があるわけでもない」人々が増えつつある。本書では、そうした人々を「残余型」と呼ぶ。都市部の非正規労働者がその象徴だ。所得は低く、地域につながりもなく、持ち家がなく、年金は少ない。「大企業型」と「地元型」のマイナス面を集めたようなタイプである。「残余型」は、必ずしも所得が低いわけではなく、典型的な生き方もない。共通しているのは、政治的な声をあげるルートがない点だ。「大企業型」のように労働組合に所属しているわけでもなければ、「地元型」のように町内会や業界団体に入っているわけでもない。現代日本社会は、「大企業型」「地元型」「残余型」の3つのタイプで構成されている。厳密な割合を出すことはできないが、「地元型」が36%、「大企業型」が26%、「残余型」が38%程度と推計される。

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日本社会の「しくみ」と欧米社会の「しくみ」

日本は「社員の平等」欧米は「職務の平等」

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日本での格差は「大企業か中小企業か」、つまり「どの会社か」によって決まる。一方、ヨーロッパやアメリカなどでは「ホワイトカラーかブルーカラーか」、つまり「どの職務か」が強く意識される。欧米などの企業は三層構造で説明される。上から「目標を立てて命令する仕事」である「上級職員」、「命じられた通りに事務をする仕事」である「下級職員」、そして「命じられた通りに体を動かす仕事」である「現場労働者」だ。

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要約公開日 2019.12.02
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